ときどき仕事の空き時間にアンティークショップにいってみて、どのようなものが売られているのか観察することがあります。日本の気候と日本人の審美眼に耐えうるアンティーク家具をしっかり修復して売りだすということは、本当に精進が必要な商売だと思います。
イギリスや海外では「味」としてみられますが、日本では傷や染みゆがみや段差などは欠陥として見られるようです。その家具が生き残ってきた証としてオリジナルをたくさん残す方向性のアンティーク家具を、商品に完璧さを求める日本人に分かってもらえるのだろうかという懸念があります。
売れ筋というか、やっぱり日本人にとっての人気商品があるのでしょう。イギリスでよく見かけるマホガニーやウォルナットなどの家具はあまり見られませんでした。オークのものが多くて、薄いステインの着色がされているものがほとんどで、非常にきれいに手入れがされていました。新品のアンティーク家具という感じでした。「角の丸みや、欠け、段差や、インクのしみ」、僕としては元のオーナーの使用感やどのように家具が使われてきたのかという形跡が跡かたもなく処理されているように感じました。
ステインでの着色や、厚みをつけないポリッシュなどは、日常の使用に耐えうるように、少しでもアンティークの風合いを残しながらも水分や熱、溶剤への配慮が見られて、それは日本で商売することの厳しさの表れなのだろうなとも思われました。
ただ、どうしても、不思議でならないのが、イギリスへ買い付けに行っているはずのお店で「ドローリーテーブル」という表記がされていることや脚の形をすべて「猫脚」として十派一絡げにして表記することが目につきました。
Drop leaf table「ドロップ・リーフ・テーブル」、テーブルの天板が折れるようになっていて、下に落として収納するテーブルのことで、ヒヤリングからするとドローリーテーブルとなったのでしょうが、イギリスに買い付けに行けばわかるのになと思ってしまいます。このテーブルについてはまたの機会にじっくりと見ていきたいと思います。
写真は非常に美しい木目の18世紀 マホガニーのドロップリーフテーブル 足のパドフィートという形が特徴的です。
そして、猫脚。これに関しては英語訳もありません。脚のスタイルは、Cabriole leg と言われるものが、日本語で俗に言う猫脚の形に近いかもしれません。Queen Anne Cabriole legs や Cabriole with claw and ball foot そして French cabriole 等がよく見かける脚の形ですので、覚えておきたいところです。
スタイルを見分けるときにも部材としては、脚と足で使い分けられています。人間の体でいうと膝から下ぐらいの長さで全体のスタイルを見るときは legs という表記になり、足の部分だけの形を見るときには Feet という表記になります。キャビネットやチェストなどの下に取り付けられたものは、Bracket feet や Bun feet となります。年代やスタイルの特徴が色濃く反映される場所ですので、その時代の特徴的なもの、代表的なものは覚えておくと、家具を見て回るときにだいたいの年代がわかるようになります。そのぐらい脚と足は大事なパーツです。
参考:ディテール集
リージェンシーファニチャーの椅子の特徴にサブレ・レッグという脚の形があります。下に行くほど外に向かって広がっている形で、日本語で言う「末広がり」という感じですね。このタイプの脚の他にはスクロールド(ロープのようなねじれを表す挽きもの)やテイパード(先細りの形)、そしてフルーティド(内側に溝が掘られたような)、意匠が多く見られます。
ちょっと見づらいですが、ディテール集にのせてあります。legs and feet のなかの legs and feet の上から2段目左から二つが代表的な脚の形です。
修復の基本で見た、19th C Mahogany music stool もサブレレッグです。
この時期の椅子のもう一つの特徴としては、椅子の座面が両サイドはサイドレールの内側でレールの内側にはまっていますが、正面はトップレイルの上に乗るか、トップっレールが一段下がったように見えています。
チッペンデールの時代の椅子ですと、すべての座面がレールの内側に入っていますので、正面から見たときのレールの存在感が際だっています。よりスタイリッシュにデザインが洗練されています。
また脚と脚をつないで支えていたストレッチャーが見えなくなっていますので、脚周りもかなりスッキリした印象に感じられます。
この時代の木材としては、とにかくマホガニーの美しさが際立っています。硬くきめの細かいマホガニーに丁寧にポリッシュされていますので、艶の光り方がとても美しく輝いています。英語では "warm golden colour" と表現されています。
さて左の写真はトラファルガーチェアーと呼ばれる椅子の代表的な形のものです。
大きな形の源泉は古代ギリシャ時代のクリスモス チェアーから来ていて、前回お話ししたようにリージェンシーの時代も古代ギリシャ、ローマからデザインのモチーフを継承しています。
ただ、この時代にはナポレオンの力が強くなり、フランスから攻撃されるのではというプレッシャーのある時代。
この時の提督、ネルソンがフランスをトラファルガーの海戦で破った時代のものであり、そのことから海軍にゆかりのあるモチーフ、ロープや錨、イルカなどがたくさん使われていて、このタイプの椅子はトラファルガーチェアーとかネルソンチェアーと呼ばれます。
ちょっとスポーツ観戦と食欲の秋に興味が向いている間に、あっというまに1か月がたちました。 これまで、Neoclassicalの家具を中心に、有名な家具デザイナーのチッペンデールから始まって、フランスの影響を受けたり、与えたりしていることもあって、フランスの同時代の家具を少し見てきました。前回はOPENかCLOSEの違いでFautailとBergereがありますよ。というお話でした。 スタイルの歴史を簡単に言いますと、(これはMiller's Antique Checklist furnitureという本を参考にしています。)
~1620年あたりまでを | Gothic(ゴシック) | |
1620年ごろ~1700年ごろ | Baroque(バロック) | |
1695年ころ~1760年ごろ | Rococo(ロココ) | |
1755年ころ~1805年ごろ | Neo-classical(ネオクラシカル) | |
1799年ごろ~1815年ごろ | Empire(エンパイアー) | |
1812年ごろ~1830年ごろ | Regency(リージェンシー) | |
1830年ごろ~1880年ごろ | Eclectic(エクレクティック) | |
1880年ごろ~1900年ごろ | Arts&Crafts(アーツ アンド クラフツ) | |
1900年ごろ~1920年ごろ | Art Nouveau(アートヌーボー) |
という感じで、ヨーロッパの大まかなスタイルの変遷があります。各国で少しづつ呼び名が変わりますし、イギリスなどはほとんど違うのですが、大きな枠として覚えておくといいと思います。マサムネ工房ではイギリスの家具が中心になっていますので、一応イギリスのスタイルの呼び名も書いておきます。
(スタイル名) | (君主名) | |||
1558~1603 | Elizabethan | Elizabeth Ⅰ | ||
1603~1625 | Jacobean | James Ⅰ | ||
1625~1649 | Carolean | Charles Ⅰ | ||
1649~1660 | Cromwellian | Commonwealth | ||
1660~1685 | Restoration | Charles Ⅱ | ||
1685~1688 | Restoration | James Ⅱ | ||
1688~1694 | William & Mary | William & Mary | ||
1694~1702 | William Ⅲ | William Ⅲ | ||
1702~1714 | Queen Anne | Anne | ||
1714~1727 | Early Georgian | George Ⅰ | ||
1727~1760 | Early Georgian | George Ⅱ | ||
1760~1811 | Late Georgian | George Ⅲ | ||
1812~1820 | Regency | George Ⅲ | ||
1820~1830 | Regency | George Ⅳ | ||
1830~1837 | William Ⅳ | William Ⅳ | ||
1837~1901 | Victorian | Victoria | ||
1901~1910 | Edwardian | Edward Ⅶ |
となります。そして次回から見ていくのがRegency の時代の家具になります。
簡単に特徴を言っておくと、このあたりから19世紀に入りますので、まず時代の書き方として、よくEarly19thC と書かれたりします。19世紀初頭という感じですね。デザインのモチーフとしては、やはりネオクラッシックから受け継がれる古代ギリシャやエジプト、ローマなどに使われていたものを踏襲しています。リージェンシーの初期は曲線のアシンメトリックのもがあり、そこからシンメトリックでより直線的なデザインへと移行していきます。アンティーク家具の魅力14でおはなししたとおり、フランスでLOUIS XVからLOUIS XVIへの変遷で起こったこととよく似ています。そしてフランスではそこから時代の雰囲気を呼び込んで、もっと洗練されてDirectoireへ、そしてEmpireという家具のスタイルへと移行していきますが、その移り変わり方に影響を受けて、ロココからネオクラシックへと移り変わり、そして呼び名は違いますが、イギリスではリージェンシーへと移行していきました。ちょうどこの時にフランスではナポレオンが登場して帝国主義による植民地支配が世界中を席巻していきます。それに伴い、家具のデザインも、より珍しいもの、個性の強いものへとシフトしようとして、ゴシックやネオクラシック、シノワズリー、エキゾティック性の強いものなど、なんでも取り入れようとしていきます。しかし、僕個人としては、もう少しシンプルできれいな色合いの家具が好みですので、次回はサブレレッグチェアーを見ていきます。
アンティーク家具の魅力15ではsofaについて、いろいろな呼び方があります。と少し例題をだしてお話をしました。ここまでの家具の中心は、イギリスとフランスのネオクラシカルから次のスタイルへ向けての黄金の18世紀の家具の話をしています。本来イギリス家具を中心にお話ししたいのですが、本家本元のお話は重要ですので、フランスのものを外せません。そこで、この時代のもう一つの大切なフランスの椅子のお話しです。これは、もう至極簡単。とにかく、このポイントさえ押さえてけば、大丈夫というものです。フランスの椅子の代表的な2つの形。
Bergere
ひじ掛けの下の部分に布がはられていて、クローズドになっていますね。
形としては体を包み込むような曲線が特徴的で、一人掛けのソファーのようです。
とても優雅な雰囲気を持っています。
Fauteuil
こちらはオープンアームチェアーとなり、ひじ掛けの下の部分が空洞になっています。広くイギリスでも、フランスでも使われていた形のものですが、発祥はフランスとなります。
この2つの形は違えども、各スタイルごとにまたデザインが微妙に変わっていきます。
LOUIS XVの様式ですと、絵の中に貝殻や左右非対称のモチーフがあらわれ、脚はS字カーブをきれいに描きます。ギルディングが施されたり、ニードルワークで背もたれのクッションが編まれたりもします。ロココテイストです。
Louis XVIの様式ですと、まっすぐな脚、背もたれは規則正しい楕円形になり、全体的に直線が印象つけられます。こちらはネオクラシカルのテイストです。
今度フランスへ行かれる方は、街角のカフェなどでよく見てみてください。いろんなタイプのFauteuilsとBergereが見られます。
ちょっとここらでスタイルからジャンルへと話を変えてみたいと思います。Sofaにはなんだかたくさん呼び名があります。
Sofa, Couch, Canape, Settee, Settle, Chase-lougue, Day Bedなど、たくさんの呼び名が出てきました。
現在は主に、Settee =イギリス英語 Couch=北米英語 Canape=フランス語で使われているようです。
イギリスからの視点で見ると、この原形はsetteeやsettleから来ているようです。
Setteeは木製のアームチェアーを2つ、3つくっつけて大勢で座れるようにしたもの座ることを目的にして作っています。
Settleは木製の長いベンチで、ひじ掛けと高い背もたれがあって、これも大ぜいで座れるようになっています。
ここは推測ですが、やっぱり誰もいないときに長椅子を見つけると、寝そべってしまうのではないでしょうか、そこから、もっと快適になるようにクッションを置いたり、昼寝ができるようにひじ掛けを低くして、まくら代わりにしようというほうに考えが進むのはとても納得がいきます。
Day Bed, Chase-lougueは、イギリスとフランスでの使い分けで、体を伸ばしてリラックスできるように、背もたれが大きくなってクッションが入り、脚を伸ばせるように長くなっています。
イギリスの初期のDay Bedはベッドのひじ掛け、背もたれが大きくなって、体を倒して、枕の代わりになるように工夫されています。
その長椅子などの大きな椅子にもっとクッション性をとりいれて、リラックスして座れるようになったものが、Sofaと呼ばれるようになります。
フランスでも同じような進化をとげて、Chase-lougueからCanapeやCouchへと発展していったのだと思われます。
Couchは古フランス語でベッドという意味合いがあったので、アイディアとしてはベッドでしっかりと寝るのではなくて、昼寝用につくられたものとサロンなどでリラックスして会話を楽しむために作られたのものがあるようです。
各地域、各国でアイディアが同じでも呼び名が変わっていったものと思われます。
Couchは背もたれが低くなり、肘掛のうち一方が首や頭をもたれさせられるように高くなっているものでした。
今でもイギリスではCouchはSofaと意味合いの違うものとして使われているようです。
Sofaは座るためのもの、Couchは寝るためのものとして使われているようです。
また現在ではアメリカでは、Couchは2人掛け、フランスのCanapeは3人がけが多いようですが、18世紀後半ごろのCanapeは一回り小さく1.5人分という感じの大きさのものが多く、小ぶりでセンスの良いものが多く作られています。
日本語にはソファもカウチもカナペも入ってきていますね。
カナペは食べるものにもありますし、英語だか、フランス語だかよくわからずに使っていましたが、意外とそれぞれに意味合いがあるものですね。
ここまで18世紀の中ごろから19世紀にかけて、イギリスの家具のスタイルでNeoclassicスタイルの作家や家具を見てきました。
今回は同じNeoclassicでもフランスのものを見ていきたいと思います。
ここでのポイントは緩やかに家具のスタイルが変更していくということです。
歴史上、今ネオクラシックとか今リージェンシとか言われているわけではなくて、これは後から振り返った時に付けられている名前ですので、スタイルもかぶっている期間がありますし、移り変わりは緩やかです。しかし、写真で見ると一目瞭然。その特徴の移り変わりははっきりしています。
今回はフランスのLOUIS XV(1723-1774)と LOUIS XVI(1774-1793)の時代の移り変わりです。ちょうどロココスタイルからネオクラシックへと移行する時で、ロココスタイルは柔らかな曲線、左右非対称の図柄、真鍮で隙間をうめるように豪華に装飾されています。
ツキ板も豪華にいろいろな種類のもので表現力をUPしています。
一方、ネオクラシックスタイルは直線を多用して、装飾は彫刻が多くなり、ツキ板もマホガニー一種類でシンプルに表現されており、左右対称の図柄、シックな装いに変化が見られます。
この移行期には曲線から直線という変化に関しては、フランスの得意とする曲線から、イギリスの得意とする直線のへの移行は、その時代の国の力関係の大きさにも関係していると思います。
特にロバートアダムがイギリスで、フランスの代表する椅子の形、Fauteuil(ファーテイル)をデザインに取り込んで、巧みにイギリスの雰囲気と、イタリアで見た装飾を融合させ直線でデザインをまとめていった影響を強く感じます。
ここまで黄金の18世紀とも言われる、イギリス家具史の中で、トーマス・チッペンデールとロバート・アダムをご紹介してきました。
黄金期と呼ばれるだけあって、まだまだ個人として優れたデザインを残した人がいます。
その中の一人、今回の主人公はジョージ・ヘップルホワイトです。
この人も本を出版しています。Maker and Upholster's Guide この本は1788年に出版され、クライアントとクラフツマン両方から愛用されます。
またヘップルホワイトはトーマス・シーラーと The Cabinet-maker's London Book of Prices を刊行します。
この当時、家具作る人はスペシャリストとなっていました。
工房を運営するマスター、そこで働く従業員のジャーニーマン、そして徒弟制度の弟子、3つの階級があって工房の経営が運営されていました。
この工房の中では一つの家具を作るとき、木材や布張りなどのおもな材料費用は経営者が出していましたが、その他のこまごました物は従業員であるジャーニーマンが費用を持つことになっていました。
そして雇用形態は日払いか、家具ごとの出来高でしたので、家具ごとのコストの計算をすることがとても大変でした。
そのため、その基本的な労務費を算出して、家具ごとのコストがわかるような出版物を製作したのがこの本です。
この本を見れば、製作費、家具の値段、そして家具の種類(カタログとしての役割)とたくさんの役割を果たしました。よって、この本は主にワークショップで使われました。
ヘップルホワイト自身のデザイン的な特徴は、盾の形をした背もたれ、細く洗練された形で作られており、脚もまっすぐでテーパーとなっており、純粋にロバートアダムのデザインを継承して、もっと単純な構成、形へと移行されていきました。
やはりスタイル的にはネオクラシカルのモチーフをふんだんに取り入れており、ハープ、スワッグ、盾、などの古代ローマ、古代ギリシャを連想させる装飾を多く用いています。
デザイン的にはシンメトリーの形になってきて、左右対称、長方形、半円の形などが多くなってきています。
このデザインはアメリカのフェデラルというスタイルに大きな影響を与え、大流行しました。のちに、アメリカの国旗などに描かれるイーグルの模様も、この時代のデザインの影響が強く反映されています。
18世紀の後半になってくると、Neo-Classic ネオクラシックのデザインスタイルが流行してきます。17世紀の中ごろからグランドツアーと呼ばれる、イタリアへの留学が裕福層の間で、流行します。その影響がイギリスのデザインの歴史に一時代を作り上げます。椅子でいうとより線が細くなり、脚はまっすぐで先細りの形になってきます。(テーパーといいます)装飾にはギリシャ、ローマ時代によく見られた、スワッグやトロフィー、杯、など古代の遺跡にあったモチーフからインスピレーションが多く見られます。そのイタリア留学からもどり、室内装飾のデザインと、家具のデザインで名をはせたのが、ロバート・アダムです。
彼の登場で、室内にトータルコーディネートという概念が生まれてきます。
壁の色、装飾、家具の色、装飾、天井の・・・という風に全体を統一感をもってデザインされていきます。
有名なマナーハウスにKedlston Hall があります。
ちなみに僕がツアーでいったのはこちらのマナーハウスです。
こちらにはアンティーク家具の修復工房が併設されていて、これが縁でインターンをさせていただきました。
ロンドンにも工房があって約3週間通わせていただきました。
先日紹介したV&Aにある、ロバートアダムとトーマスチッペンデールの合作。ただし、この椅子のデザイン的な特徴はロココですね。ギルディングのモチーフが左右非対称で、貝殻などはロココの代表的な絵柄です。ロココからネオクラシックに移行する時ですね。
スタイル的にこのように洗練されてきて、全体が細く、シャープになってきています。テクニック的にはペインティングが取り入れられてきています。
ロバートアダムが作ったあたらしい背もたれの形 楽器のハープのモチーフです。
これも古代ローマやギリシャのモチーフから影響を受けていると思います。
ロバートアダムはフレンチスタイルの椅子を多く取り入れるようになってきて、ギルディングを施したり、パステルカラーのグリーンや、ピンクなどを使い、ときにはペインティングを施して、表現の幅を広げました。
ロバートアダムデザイン マナーハウス
さて左右の写真ではどちらが本物のチッペンデールの椅子でしょう。
トーマスチッペンデールはイギリスの家具の歴史を変えたといっても過言ではない偉大なデザイナーです。
これまで家具は大工や家具専門の職人が頭の中にある図面を形に変えてきました。
このチッペンデールの登場で、分業性が進みます。
初めて自分のデザイン集を出版して、オーダーをとって椅子を作るということを始めました。
おもに、デザインは、ゴシック、ロココ、シノワズリー、ネオクラシックからなります。
特徴としてはマホガニーを使い、ピアーズといわれる背もたれの部分を彫刻でくりぬいた装飾、スタッフオーバーといわれる、座面の布張りが座面の枠の外側にでてきて、レールといわれる部分を覆い隠すようになっているタイプがよく見られます。
写真の左側のものです。
あとこの時代のこのタイプの椅子で必ず確認する部分はシューといわれる3番目の写真の部分です。
通常は4番目の写真のように、バックスプラットがシュ―のなかに入って座面のレールとのジョイント役をしています。
少し変わっているのは、シューのなかにバックスプラットが入り込んで、直接レールにジョイントされています。
このように部分の通常のパターンを把握しておき、あたらしい形が出たときに注目するのです。これも本物のチッペンデールチェアーに見られるシューの形の一つです。
これがすべてではありませんが、特徴的な部分です。
これらの総合的な判断からすると、左の写真が1760年代に作られたチッペンデールチェアーで、右の写真はヴィクトリアンの時代に作られたリプロダクションです。
リプロとはいえ100年以上たっていますし、出来栄えも素晴らしいアンティークです。
マサムネ工房のホームページにディテール集を作りました。そちらでも数点のチッペンデールの背もたれの特徴が描かれています。
今回は映画「英国王のスピーチ」です。
映像がシンプルで、コミカルに進んでいきます。
イギリス人のプライドの高さ、またその上をいく皇族のプライド。
階級社会であり、過去の遺産でご飯を食べていると言われた、皇族の苦悩みたいなものも垣間見えます。
良くも悪くもイギリスだなーという感じでした。
しかし、注目すべきはそのシーンシーンにでてくる、家具の面白さです。
まずは、ウエストミンスター教会でジョージ6世役のコリンファースが振り向くと、ある椅子に座っているローグ役のジェフリーラッシュに激こうするシーンがあります。その椅子に座ったことで、なぜそんなに起こったのか、それは13世紀にエドワード1世のために作られた、王様の椅子だからです。戴冠式用の椅子として王族の儀式のときに使われてきた、由緒正しい椅子なのです。
アンティーク家具の世界でも、一目置かれる椅子に一般人のローグが座っているのを見た時は僕もぞっとしました。
さてそれから、ラストに迫ると、国王がスピーチを始め、それぞれの生活レベルや国の特徴などが置いてある家具からよく読み取れるように配置されています。
一般の労働者階級が集うパブでは丸い背もたれが印象的な、トーネットなどの椅子、日本ではカフェ椅子などともいわれていますね。皆さんおなじみの黒っぽい色をしたかわいい椅子です。
少し裕福そうなおばさんが写るシーンでは、ジョージアン調のブラウンファニチュアーが部屋を飾っていました。
そして、国王のお兄さんが恋人と放送を聞いているシーンでは、きらびやかな金色の金物があちらこちらの家具に配されていて、雰囲気からいくと、フランスにいるのではないかなーと思われました。
その他にもいろんなシーンにいろんな家具がでてきますので、ゆっくりおご覧ください。
家具の特徴をじっくり見るために、マサムネ工房のHPにデザイン、スタイルのページをでティール集として作りました。こちらで、特徴を探してもらうと、時代や名前がわかると思います。
映画を見る時も、テレビを見る時も、写真を見る時も素敵な家具が写っていると嬉しくなります。
Late 17th C Oak Joind Stool
17世紀の後半の代表的な構造はジョイントコンストラクションと前回お伝えしました。スツールはその構造を使ってできた、椅子の原形と言えます。
もうすこし、わかりやすい写真で説明すると下のような写真になります。
材と材が組み合わさる部分がmortice and tennonと呼ばれる組み方になっていて、日本の大工さんや家具職人もよく使う仕口の形ですね。
日本語ではほぞ穴とほぞと呼んで、ほぞ継ぎという仕口になります。
この仕口に上から木製のピンを作って差し込んでいるところが特徴的です。
この構造が面白いのは、レールといわれる部分で箱を作って、その上に座面をのせると、作り方としては簡単です。脚はレールで作った内側から下に出してやれば、ジョイントの複雑さも解消されます。
しかし、イギリス人のかたくなさでしょうか。ジョイントコンストラクションを守るためにでしょうか、脚のボックスの部分にレールが入ってきて、ペグで止めるという基本を守り抜いた形になっています。
これについては、マイケル* に聞いてみたいと思います。
これが、16世紀から17世紀の後半にかけての特徴となる構造です。
座面ですが、一枚板のオークがよく見られます。またこの座面を固定する役割も手つくりのペッグです。
座面の上からレールに向かって打ち込まれています。
とにかく修復の際に気をつけることは、いかにこのオリジナルのペッグたちを傷つけずに分解するかというところがポイントです。
これだけにたとえ数カ月かかろうとも、方法を熟考して取り組みました。修復の過程はまた今度お見せします。
この時代にオークで作られているスツールが一般的で、アンティーク家具の塗装といえばシェラックですが、まだこのころのスツールにはあまり使われていません。
ですので、木質感がたっぷりのオークに蜜蝋などがすりこまれた、ザラっとした感覚がこのスツールの良さだと思います。
ちなみにこのスツールにより座り心地を追及する形で、椅子が発展していったという説もあります。
* マイケルはイギリス時代の恩師で、サザビーズに勤めていた時代の知識と経験を
生かして、アンティーク家具の修復や木工を教えています。
著書に、「HISTORY OF FURNITURE」があります。
今マイケルにいろいろなことを質問して、「Ask Michael」というコーナーの準備をしています。 http://www.huntleyconsultancy.com
Late 17th C Arm Chair (Late17th C Tall High Back Arm Chair)
ひじ掛けがあって、背もたれが高くて、彫刻と旋盤/ろくろの脚が特徴的です。
構造の基本的な特徴はJoinded Construction/ジョインドコンストラクションです。
接合部分にPeg/ペッグと呼ばれる木製の釘のようなもので、接合されています。この椅子では、座面と脚の部分に丸いものが見えますね。
これが当時は手で作られているので、きれいな丸ですが、少しいびつで、いかにも手で丸くしたなという感じがいいのです。
背もたれのてっぺんにCarving/彫刻が施されています。とても立派で特徴的です。
実際に見てみないとわかりませんが、この部分だけ、後付けされたりもしますので、ジョイント部分はよく観察する必要があります。
17世紀も後半になるとイギリスではウォルナットが洗練された一部の家具に使われるようになります。しかしこの時期の主流はオークです。
このタイプの椅子はイギリスか大陸のものか?という質問が良くされます。
家具の特徴からみて大陸のものであろうと予測されます。
理由は脚と貫の部分のつながり方にあります。
大陸のものはターニングで作られた貫が数珠みたいに見えるところが(勝手に言ってます。数珠といってもよそでは通じません。)ボックスと直接つながっているのが特徴です。
次に背もたれと座面の部分にCane(ケイン)といわれる。藤が使われるようになって、座り心地の改良がされるようになりました。ケインは専門の職人に頼みます。最初はすこしアイボリーの入った白に近いような色で経年変化によって、飴色に変っていきます。
この時期にはすでに中国や日本の影響があらわれてきます。漆ですね。
また、中国の椅子はとてもスリムでデザインに無駄がなく、イギリスの椅子のデザインの一部にも影響を与えました。ケインもオリエンタルと呼ばれるアジアからの影響です。
あとはVictorianという時代にこのタイプの椅子のリプロダクションがたくさん出ていますので、これが17世紀後半のものであるのか、19世紀後半のものであるのかを見分ける必要がありますが、これは、また後で説明したいと思います。
こんな感じで見ていきたいと思います。
今回からアンティーク家具の本やデザイン帳を参考にしながら、家具を観察してい見たいと思います。
特徴を捉えて、いつ頃のものかを推測できるようになると、またアンティーク家具を見ることが楽しくなります。
実際に目にするアンティーク家具はなかなか国宝級の本物というわけにはいきません。
ですが、時代の特徴、木の種類、構造の種類、意匠の特徴、このぐらいを見るようになっていけば、だんだんと自分なりに家具を見る目を養えると思います。
僕は、いい家具の定義はありません。人それぞれ好きなものを選んでいただければ、それどいいのです。ただ、根拠は必要だと思うので、一緒に勉強しましょう。
これから、観察するアンティーク家具の魅力と修復の技術的なことを織り交ぜながら、一つ一つの家具とじっくり向きあっていきたいと思います。
今日は技術的なおはなしです。
今日のブログでも書きましたが、修復を勉強中の後輩が、(今日初めて会ったのですが、後輩ということで。)今現在の修復の方法についてたくさん話をしてくれました。
少し専門的になりますが、書いてみます。
とにかく、イギリスのアンティーク家具の修復は「オリジナルの部材を残す」このルールを厳守する方向に向かってまっしぐらという印象を受けました。
HPにもかいてありますが、コンザベーションとレストレーションという2つの修復方法の考え方があります。(詳しくはアンティーク家具修復とはをご覧ください)
接着剤の選択や、ジョイントの修復方法については、特に大きな違いを見せているようでした。
2007年時点でもコンザベーションとレストレーションでは大きな違いがあり、今回は同じ学校の修復方法でも、2007年からは方法に違いが見られました。
次回から今までに直した家具を見ながら、修復のポイントや歴史的なことや、その他少しづつポイントを絞って書いてみようと思っています。突然内容が飛躍してしまい、わかりづらいこと
がありますが、今後記事を読んでいくうちに、今日の話に何度も立ち返ることになりますので、なんか言ってたなと思ってもらえれば幸いです。
今回はとりあえず、熱が冷めないうちに今日の後輩の話の内容を書いておきます。
ちなみに、今回の写真は2007年度の修復法です。家具の部材と部材との接合部分(ジョイント)の修復です。
腐食が進行していて、虫にも食われており、指で押すとボロボロと崩れるように、オリジナルの部分がなくなってしまいました。
上2枚の写真は、接合部分がなくなっていたので、新しく出っ張りのあるパーツを作って、オリジナルの部分に掘りこんではめ込んでいます。
下2枚の写真は接合部分の側面がなくなっています。新しくパーツを作り、オリジナルの部分も直線と直角に合わせてカットして、貼り合わせました。
上2枚の写真は膠を使いますが、下2枚の写真はエポキシ性接着剤をを使いました。
上2枚の部分は接合うぶんですので、将来的に外す必要があります。
膠は熱や溶剤で柔らかくなり、ふきとれますので、ジョイントには膠です。
下2枚は、もともと1本の角材からできており、外す必要のない一つのパーツですので強力な接着剤でしっかり接着します。
これが2007年度の基本の修復方法です。
それが、今は、オリジナルの部分を削り取る範囲は0に近い範囲にするように努力しているようです。
2007年度の写真の範囲でカットしていたらダメのようです。もっと最小限でできるようにしないと・・・。
無理。と思ってしまします。
接着剤も将来的にはがすことができるように、木部に塗料や膠で膜を作ってから強力な接着剤を使うようです。
お薬がパラフィンの紙で包まれているので、薬同士が箱の中でくっつかないように、オリジナルの部分には、はがすことが困難な接着剤を直接付けないようにするということです。
これでしたら、膜の部分は何かしらの方法ではがすことができますので、膜と一緒に接着剤もはがせるということでした。
この努力。このアイディア。そしてそれを遂行する強い意志。
はっきり言って、この方法をやってるかどうかは、誰にもわかりませんので、それでも、見えないところで、しっかり仕事をするということです。
ただ、少し僕には異論があります。おいおいこの記事の中で書いていきます。
コンザベーションの考え方が強くなってきていて、「見るオブジェクト」、「飾るオブジェクト」としての家具を直す方法論が学校の修復方法としても主流になってきています。
これは、学校を卒業した生徒さんの取りたい進路が、美術館、博物館を目指す人が多くなってきており、また、学校の修復方法について審査、意見をする人もその方面の人が多いのだと思います。もちろん町場のレストレーション工房では使用に耐えうる修復を行っていますので、すこし方法が異なります。
これが修復にまつわる基本的な考え方であります。
これがなければ、もっと楽ですが、修復とは言えなくなってしまいます。
その点については、家具を所有する方にも深い考え方が必要になってきます。
それでは、次回から少しづつ、実際の修復の過程を見ながら説明していきたいと思います。
環境の魅力がアンティーク家具の魅力を引き立てます。
まあ、こじつけですね。
皆さんにご覧いただいている写真の多くはイギリス留学時代のものです。
イギリスのウエストサセックス州のチチェスター、すこし山奥に立つお城を階層した建物です。エドワード・ジェームズ・ファンデーションによって運営されていて、学校だけでなく、ガーデンや酪農など広大な敷地を利用して、よきイギリスの面影をそのまま残しています。この素敵な環境は一般の方にも開放されていて、大切な会議を開いたり、大きな会合に利用されています。
円高ですからね、詰め込みの会議にイギリスへ行ってみてはどうでしょう?
>> West Dean College
ショートコースという数日間のコースは数百以上もあり、手作業のほとんどのコースがあります。木工やタペストリー、金属加工や本の作成など、週末をこちらの宿泊施設を利用して、泊まり込みで習得します。プロが技術をブラッシュアップするレベルから、ほんとに習い事のつもりで参加するコースまで幅広くあります。
>> Short courses
アンティーク家具の魅力=木の魅力ともいえます。
これも個人の好みがあります。アンティーク家具の魅力4で紹介したようなメローな色を好む人もいれば、漆黒の濡れ色になる濃い色を好む人もいます。
今回ご紹介するマホガニーでは、密度が濃くて比重が重いものです。
とても密度が濃いので、彫刻などをするとシャープにエッジがたちます。
同じデザインの椅子の脚の先端ですが、細部を比べるとこんなに違いがあります。
おじさん(お城の修復の長)が、「どうだ。」といわんばかりに見せているマホガニーは200年以上経過して、この薄さでこれほどのまっすぐさを保っています。
机のなかに使われている各パーツも素晴らしいマホガニーで作られていて、見るからに密度の濃そうな色をしています。
いまではこれほどのマホガニーは大変高価なものになっていて、修復に使うために探すことも困難になっています。
まるでいい感じに色落ちしたジーンズのように
日本人の感覚とはすこしちがうのかもしれません。
イギリスのあるディーラーから預かって修復したこのサイドテーブル、とにかく口を酸っぱくして注意を受けたのが、「この天板のメローないろをそこなわないようにしてくれ。」ということでした。最初見た時は、こんなに色が中途半端に抜けてしまっているのだから、一度天板の塗装をはがして、塗りなおすのかなと思っていました。ですが、みればみるほど、この経年変化によるいろの代わりかたにはまりました。
たとえて言うなら、ジーパンの色がちょうどいい具合に抜けてきて、色の濃いところと、薄いところのバランスが良くなった感じでしょうか?みなさんどう思われます。
イギリスにも昔からの邸宅やお城を開放していて、中を見ることができるところがります。
重要文化財のような特別な扱いを受けているところがほとんですので、触ったりはもちろんのこと、座ったり、寝そべったりはできません。
広大な敷地に手入れの行きとどいたお庭をすり抜けて、お城をぐるっと一周。なかなか普段見えない景色が広がっています。
ここまできれいになることがアンティーク家具の魅力の一つだと思います。
この家具は数十年もの間、あるクライアントの倉庫で保管されていました。
保管と言っても、置いておいただけなので、カビが生え、埃だらけになり、いろんなパーツがなくなったりしていました。
しかし、どのパーツも自然の素材からできていて、復元が可能でした。
白い部分はジェッソという石灰に近いものからできていて、表面にシェラックで塗膜ができています。
金色のところはギルディングといわれる、金箔貼りですし、躯体はパイン材です。
ベルベットを貼りなおして、全体を磨きあげました。約2年かけて作業を終えました。
ここまでの回復を想像できたでしょうか?
ここまで回復することを知っていたら、いくらボロボロのアンティーク家具をオークションで見つけたとしても、ポテンシャルに惚れて買ってしまうのではないでしょうか。
仕上がりのレベルをお客様と共有することができれば、想像力をかきたてられて、ボロボロの状態の家具を修復師とお客様とが見つめながらニヤニヤするでしょう。
修復することによって寿命が延びますし、この回復するまでのプロセスを楽しめます。
お客様からすると、どうやって修復するのだろうと知的好奇心をくすぐられますね。
アンティーク家具の魅力。
この家具はマホガニーというツキ板がパイン材の本体に貼られています。
そのツキ板を当時の技術力で薄くカットしているのですが、このように波打っています。
現在の家具ではありえないのですが、僕はこの鈍く光る感じと、歴史を感じさせるこの波打ちに強く引きつけられます。
まっすぐでない直線や、欠けている角や、薄くなった色、そういった家具の変化をいかにチャーミングに見せられるかということが僕は修復師として大切な技術だと思っています。
オークションや学校では決して評価されないポイントですが、間違いなく、アンティーク家具に見られる特徴です。
皆さんの家具にはどのような印が見られます?